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自分の体は自分で守っていく時代

image-reccommend02研究検査主管 森岡昭雄

精度管理という言葉は、一般の方には、全く全然これっぽっちも馴染みのない言葉だと思います。臨床検査の世界では、海よりも深くて、地球よりも重いっていうくらい重要なモノなのですが、今や、スピードとコストが求められる時代なもので、精度管理をちゃんとしている検査室は経営と技術とモラルの狭間でもがき苦しんでいるのが実情かもしれません。

精度管理がいい加減になったら、どういう事が起こるでしょうか。大袈裟な表現はしないつもりですが、例を挙げてみましょう。

その1 (陽性か陰性かの世界)
妊娠反応の検査の精度が低かったら、妊娠の判定ミスがたまに起こることになります。医師は臨床検査技師の報告を信じるしかありませんので、この産婦人科医は、どういう評判になるかは容易に想像できると思います。妊娠反応は、万が一(10000人に1人もしくは10000回に1回)でも間違った結果を出すことはできないのです。
妊娠反応をはじめ、HIV等の性感染症検査やDNA鑑定など、陽性か陰性かで人生が変わる検査項目はけっこうあります。

 

その2 (数値で表現される世界)

臨床検査の世界では、先に述べた、陽性、陰性といった結果の世界と、血糖値とか、コレステロール値といった数値で出す結果の世界があります。老若男女を考慮して、統計的に健康なヒトのデータを正常値(基準値)と称して、高いか低いかで、症状を把握しやすくするものです。

例えば、私の総コレステロールの値が250mg/dlだったとします。
これは100ccの血清中に0.25gのコレステロールが溶けてる状態なわけです。

コレステロールの基準値は現在、120以上220mg/dl未満となっておりますので、「正常なヒトより30mg/dlも高いですね。メタボリックシンドロームになりますよ!」と指導されます。
「異常です」とは、なかなか言いません。
「標準よりも高い傾向にある」という言い方をします。
なぜなら、私が正常な時の本当の総コレステロールの値(真の値)は神様しかわからないからです。もしかしたら、一番健康な時の私のコレステロールは260mg/dlかも知れません。

私の真の正常値が標的の真ん中だとすると、矢や銃を射て、100発100中、真ん中に当てる超ウルトラスーパー名人は実在するはずがありません。
ゴルゴ13みたいな虚構の世界でないといないのです。臨床検査の結果を虚構の世界にすることは、絶対にしてはいけません。
臨床検査の世界は、100発射って95発標的のどこかに当たれば良しとしています。
一発も標的の真ん中に当たらなくてもいいのです。そして、精度管理は、見えない真の値に矢を射る努力をし続けるわけです。

 

その3 (人間が起こす間違いの問題)

以前私が勤めていた病院の職員の集団検診で、私の検尿が悪い結果だったので、当然泌尿器科で診察しましたが、全くの健康だと言われました。そしてその頃、同僚が急性腎不全で長期入院をしてしまったのです。これは、集団検診の時の検査の取り違えがあったと思われます。

どこの集団検診でも番号管理をしており、検査する血液や尿は、番号順に並べて検査が進みます。尿検査は当日生理なので採らなかったり、さっきオシッコしたばかりだからと提出しないヒトが必ずいるのです。そんな検査物を機械的に並べると、ズレが起こる可能性があるのです。プロ中のプロの集団内でも発生する可能性があるのです。

ヒトの手で番号や名前を書く場合や、番号シールを適当に貼る場合なのが重なると、1なのか7なのか、6という字が逆になって9になったりします。氏名は大抵、カタカナで入力します。そんな時「アとマとスとヌ」、「シとミとツ」、「ワとフ」、「クとケ」、「エとコとユ」、「セとヤとヒ」、「ソとン」、「ケとチとテ」、など、結構判別しにくい文字があります。
「マエカワ キヨシ」が「アユカワ キヨミ」になったり、「マチセ フミコ」が「アケヤ クミエ」になったり、全然別人になります。

ミスを未然に防いだり、絶対にミスが起こらないシステムを導入することも精度管理では重要なことなのです。

検体の取り違えをゼロにし、誰も知らない真の値に近い結果を出すことで、我々の臨床検査は高い評価を得られており、多くの方々から信頼されてきました。こういった意味で、精度管理に妥協はできず、たとえコストがかかってもいい加減な結果を出す事が無いよう、歩き続けています。